現役ビジネスマンからの手紙(第2回):留学前

[火曜コラム]現役ビジネスマンからの手紙<第2回>

Shinichi Tanaka
Shinichi Tanaka
photo by Tatsu Ozawa

留学前

あすなろニュースレターをお読みの皆様、こんにちは。田中伸一です。

今回は、社会人になってからアメリカ留学までの約6年についてお話ししたいと思います。主に英語のテスト対策です。留学先はシアトルにあるUniversity of WashingtonのMBA(注1)です。社会人になって初めて受けたTOEICは500点でしたが、留学書類をアメリカに送付する頃には、TOEFLの旧式で610点、留学に必要なGMAT(注2)というテストで680点と、点数だけはなんとか留学できるレベルに到達しました(ただ、会話はほとんど練習しておらず、これがアメリカに渡ってからの苦労の原因となりましたが、こちらの話は次回以降でお話しいたします)。

社会人になった当初2年程度は、会社の人事部主催の定期的な英会話講座に参加している程度でした。そんな中で、留学を経験された方々が海外の取引先と流暢な英語で話している姿を見て、「かっこエエな~~」と憧れを抱きつつ「どうすれば留学できますか?」「どうやったら英語が出来るようになりますか?」といった質問を投げていました。

いろいろと聞いて回りましたが、皆様口を揃えて言うのは「それなりの投資をしないとダメ!!」という事でした。学生時代に比べると時間的な自由度は少なくなり、その中で結果を出すためには効率的に勉強しないといけない、そのためには効率的に組まれたプログラムごと買いなさい、というメッセージでした。

私の場合、新入社員の給料で高額の英会話教室に通うのもためらわれたので、まずは「TOEICの点数を上げよう!!」と自己分析をしたところ、文法△、読解△、リスニング×という、日本人の典型でした。そこで、文法の満点を目指して段ボール箱1箱分程度のTOEIC関連の問題集や参考書を買いあさって勉強し、苦手のリスニングを克服するため通勤時に『1000時間ヒアリングマラソン』というリスニング講座に取り組んだところ、1年で約100点アップの600点、2年で約200点アップの700点と、面白いように点数が上がり「俺って結構イケてるかも」と不遜な自信を持つようになりました(笑)。

このリスニングについて申し上げますと、最初はほとんど聞き取れない音の流れだったのが、3回-5回と聞いているうちに時々わかる単語が出てきて、少しずつ聞き取れるようになってくる。かなり気の長い話ではありますが、カラッポだった頭の中にゆっくりと英語のインプットによる蓄積がされていったのだと思います。ちなみに、通勤時のヒアリングは留学後も続けていました。結局、地道に聞き続けたおかげで英語脳が出来上がったのかもしれません。リーディングについては、これは単語力+文法力+一般教養=総合力なので、それほど急には伸びませんが、数をこなしていくうちに、スピードも上がっていきました。ご参考に申し上げると、実はスピーキングは、ある程度の英語のインプットがあって英語脳が形成されていると、比較的短期間で上達します。やはり、私のように社会人になってから英語を本格的に勉強するとヒアリングが一番時間がかかりました。

さて、留学の社内選考を通ってからはお金の使い方が加速していきました(笑)。会社は学費は出してくれますが(後に自分で支払う事になります)、留学先の学校を決めるためには一般の方々と同様に出願して入学許可を勝ち取らないといけません。コネ無しの世界です。但し、一般競争にさらされるのは、私のように文系で専門分野が無い場合です。既に専門知識がある技術系は全く違います。私と同じ時期に留学選考に通った技術職の方が、アメリカの超有名大学に、会社の名前だけで推薦入学のようにOKをもらっていたのが凄くうらやましかったです。

留学希望先から入学許可をもらうのには、TOEFLとGMATの最低限をクリアし、それにEssayを書かないといけません。TOEFLはTOEICと比較すると英語自体が難しく、恐らく日本語で読んでもわかりにくく専門的な内容が出てきます。また、文法の問題も難解ですが、とてもよく練られた良問が多いです。Test of English as a Foreign Languageの名前のとおり、英語が母国語でない留学志願者の英語能力の指標として全米の学校で使われるため、小手先のテクニックで通用するような内容ではなく点数を上げるのに苦労しました。当時の市販の問題集は、TOEFL用と題名には書かれていても内容的にはTOEICと大差のない内容で、とても本番のTOEFLの点を上げるには役に立たず、アメリカから専門の予備校の教材を取り寄せたりしましたが、当時の私には解説が言葉足らずで、大きな成果は得られませんでした。最終手段として留学専門でTOEFL対策をしている予備校を4校ほど回って、やっとTOEFLの出題者の意図を読み取れる知識レベルの講師に出会い、そこに通い詰めて、最後の一年で100点(旧式)ほど上がった記憶があります。TOEFLやGMATなどの専門的な学習内容を教えられる方々は、当時は日本にもそれほどおらず、その分投資が必要でした。

またEssayとは、志望動機や自分の信条特定の時事問題に対する自分の意見など、出願先ごとに出される題材について書くものです。実は、このEssayが決定的に合否に影響します。というより、これで7~8割方決まります。TOEFLはほとんどの大学・大学院では授業についてこられる英語力が有るかどうかの足切りにしか使わず、GMATもいわば日本の大学入試におけるセンター試験程度の位置づけになっており、最終的にEssayでどれだけ自分をアピールできるかで決まります。そんな重要なものは専門のコンサルタントに添削してもらうしかなく、その価格が20年前の当時で1時間2万円でした。これを30~40時間使ったと思います。これだけで恐ろしい金額ですね(笑)。

このEssayは、英語以上にその質問への答え方で苦労しました。例えば「あなたの将来のキャリア計画は何ですか? そのために、わが校のプログラムはどう役立ちますか?」という質問。大学時代に全く勉強せず、なんとなく「いい会社」(知名度が高い会社、大企業等)に、仕事の内容でなく会社名で選んで入ったので「そんなん聞かれても分かりまへん!!」というのが正直なところでした。ただ、正直に書くと不合格は目に見えているので、大学時代や社会人になってからの経験の中で、自分の価値観を掘り起こして、明文化していく事になりました。

この時に感じた「これは違う」という感覚は、実際に現地で生活するともっと大きくなりましたが、のちに読んだ司馬遼太郎さんの『アメリカ素描』という本に書かれていた内容とピッタリでした。それは「米国は“こんな国を作りたい”という主義主張が最初にあってイギリスから独立した人工国家(=States)であり、日本を含む他の大多数の国のように地理的に集まって自然発生した国(=Nation)とは根本的に違う」という部分です。Essayの質問は、その主張を聞いていますが、当時の私には勝手が違う強い主張をする必要があり、とても戸惑いました。

今にして思えば、このEssayの添削やTOEFL・GMAT対策講座に湯水のごとくお金をつぎ込んで、留学直前の2年間で、貯めていた結婚資金のほとんどを使ってしまったかもしれません。そんな状況でも結婚してくれてアメリカまでついて来てくれた妻には、今でも感謝でいっぱいです。その甲斐あって、合格通知が届いたときには二人で抱き合って喜びました。でもそれは、もっとExcitingな生活への序章だったのです(笑)。

執筆:田中伸一

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注1: MBA Master of Business Administrationの略。経営学修士。
注2: GMAT Graduate Management Admission Testの略。大学院レベルのビジネスを学ぶために必要な分析的思考力、言語能力、数学的能力を測るためのテスト。ほとんどのビジネススクールで入学者選抜の指標として採用されており、MBAプログラム選抜の事実上の共通試験となっている。(参考)ウィキペディア https://ja.wikipedia.org/wiki/Graduate_Management_Admission_Test

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