映画「五つの銅貨」よりルイ・アームストロング&ダニー・ケイの「聖者の行進」

[コラム:音楽]心に最高の栄養を!だまされたと思って聴いてごらんなさい!<第5回>

ルイ・アームストロング&ダニー・ケイの熱唱
映画「五つの銅貨」より「聖者の行進」

久々のこのコーナーですが、今日はクラシックではなく、映画の一場面をご紹介します。


今、NHK朝の連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」“Come, Come, Everybody” で、日本でラジオ放送が始まった1925(大正14)年~昭和を生きた、三世代の女性の物語放映されています。

英語が好きで、第二次世界大戦中も戦後も細々と勉強を続けてきた安子という女性。彼の夫は結婚後すぐに戦地へ、そして帰らぬ人となります。彼の好きな曲は “On the sunny side of the street” というジャズの名曲です。「どんなにつらくても日向の道を歩いて行こう」と語りかけます。

この歌を歌っているのがジャズの王様といわれるジャズトランペット奏者、ルイ・アームストロング。トランペットの腕前は言うまでもありませんが、お世辞にも美声とは言い難いガラガラのダミ声で歌う彼の歌声は、なぜか人の心を揺さぶり、世界中の人々を感動させました。また、その愛嬌のある風貌からサッチモ(大口)と呼ばれていました。

私が初めて彼を知ったのは「五つの銅貨」という映画の中です。時代は1920年代、アメリカではビッグバンドと呼ばれる大人数編成のジャズバンドが全盛期を迎える少し前。

実在の名コルネット(トランペットの1種)奏者、レッド・ニコルズの成功物語です。田舎から出てきたばかりの彼は、コルネットの腕前は確かなのですが、今一つうだつが上がりません。その彼の才能を初めて見出したのがルイ・アームストロングでした。彼はこの映画に本人役で出演しています。

実はこの映画は私にとって特別な思い入れのある作品なのです。小学4年生の時に父がビデオに録画してくれたものを見たのですが、主人公のレッド・ニコルズ(ダニー・ケイという当代きってのコメディアンが演じていました)がコルネットを演奏する姿とジャズナンバーがとにかくかっこよくて、とうとう小学校のブラスバンドに入り、お年玉で(多分おおかた父が出してくれたとは思いますが)金色のトランペットを買ってしまったという熱の入れようでした。

特に私が熱烈に感激したのは、ルイ・アームストロングとダニー・ケイが「聖者の行進」を熱唱する場面でした。この2人、最初は「さてと、はじめるか」ぐらいの軽いノリで歌いはじめます。ショパン、バッハ、ラフマニノフ、ハイドン、ビゼ―……「聖者」=歴史に残る大作曲家の名前を次々に挙げて行き、お互いにダジャレ(英語なので訳せないところが多いです)で応戦します。そのかけ合いの途中でダニー・ケイお得意のものまねも入ります。まねる相手は目の前のルイ・アームストロングその人。ここらへんもとてもしゃれていて面白いです。丁丁発止でかけ合いが進むうちに「さて、はじめるか」がいつの間にやらどんどん盛り上がっていき、最後にはもう熱唱です。大の大人がこれ以上ないというぐらい、それはそれは楽しそうに、神から与えられた音楽の才能で自在に遊んでいる、そんな感じです。観ているこちらはこの二人の壮大なる遊びにただただ唖然としながら聞き入るしかありません。何というか、生きている喜び、とでもいうのでしょうか。神々しいまでに輝いていて、当時の私は「音楽ってこの世で一番素晴らしい体験をもたらすものなのかもしれない」と思ったものです。一生に一度でもあんな瞬間を味わえたら、その生涯は大いに価値のあるものと言えるのではないかとさえ感じました。まあ、だまされたと思って聞いて(観て?)下さい。

ちなみに、彼らが挙げる作曲家名はショパン、ビゼー、バッハ、ラフマニノフ、ワーグナー、ハイドン、ハチャトリアン、パガニーニ、サン=サーンス、モーツァルト、ロッシーニ、ラベル、マーラー、リムスキー=コルサコフ、スッペ、マスネ―、オッフェンバック、トスカニーニ等々……。さて、あなたはいくつ聞きとれますか? トライしてみて下さい。

執筆:岸田京子(英語文化学院あすなろ学院長)

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